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執筆者の写真funtrap

【NewSphere】トライ&エラーに躊躇不要、英国発の低価格コンピューター「ラスベリーパイ」

更新日:9月24日


安価で高性能の小型コンピュータ、「ラズベリーパイ(Raspberry Pi)」が、欧米の教育現場を中心に浸透している。日本ではコンピュータマニアのためのデバイスとして受け入れられているが、教育分野でも大いなる可能性を秘めている。企画製造したのは、ラズベリーパイ財団。日本の支持者グループである「ジャパニーズ・ラズベリーパイ・ユーザーズ・グループの主宰、太田昌文さんにお話を伺った。

ラズベリーパイ(通称ラズパイ)は、イギリスで生まれたLinuxで動く格安のシングルボードコンピュータだ。小さな板の上に、コンピュータとして機能するために必要なCPUやメモリ、ストレージといったものが実装されている。一般的なPCと比べ、モニターもなければデバイスのカバーさえない剥き出しのパーツだが、コンピューターとしての機能はしっかり備えている。


このユニークな製品は、発売と同時に熱狂的に受け入れられた。2011年、ラズベリーパイのイギリスの公共放送BBCのジャーナリストがブログでプロトタイプの存在を紹介するや否や、たった2日間で「60万件」の問い合わせが殺到し、最初に生産されることとなった25ドル(当時約2500円)の「Raspberry Pi 1」は、初日だけで10万個のオーダーが入った。


コンピュータの仕組みを理解するための、“大人のホビー”的な製品という位置づけのラズベリーだが、類似の製品と一線を画すのは、その基本性能の高さ。特に、ハードとしての汎用性がラズベリーパイの強みだ。サーバー用途で使うこともできるし、電子工作の一部として使うのはもちろん、財団のサイトで豊富に共有されている教育ゲームを利用することもできる。「1万円程度で(コンピュータとして)なんでもできる。それが何よりも魅力」と太田さんは言う。


ラズベリーのポテンシャルは、コロナ禍による半導体不足の際に業務用機器に流用されたことでも証明されている。突然世界を襲った新型コロナウイルスによるパンデミックは、多くの医療機材不足を生んだ。そんななか、ラズベリーパイは専門家たちのアイデアを実現し、この医療機材不足を解決するのに一役買った。


インドにあるチェンナイ工科大学の発表によれば、使いやすく、低コストで、柔軟性が高く、オープンソースの人工呼吸器を、ラズベリーパイを用いて開発したという。体温、血圧、呼吸数などを測定できるこの人工呼吸器は、マイクロコントローラーを使って制御することができるのだが、中心的な役割を担ったのがラズベリーパイだという。


また、マサチューセッツ大学アムハーストの研究者たちは、ラズベリーパイを用いて、感染症の症状が出そうな人の数を予測できるデバイス、FluSense(フルセンス)を開発した。


◆IT技術者ではなく教育者の目線で開発

ラズベリーパイに限らず、手頃なシングルボードコンピュータは存在する。だが、この製品がライバルと一線を画しているのはその開発動機だ。ラズベリーパイの創設者たちは「経営者ではなく教育者」という立ち位置をとっている。


「ラズベリーパイ財団の共同創設者であるエベン・アプトンさんは、2000年代に入りケンブリッジ大学のコンピューターサイエンスのクラスで教鞭を振るっていた」とアプトンさんと交流がある太田さんは話す。


「年々コンピューターサイエンスを学びたいと考える学生が減っていることと、志望者の入学時のコンピュータースキルが著しく下がってきていることに、アプトンさんたちが大きな懸念を抱いたのがラズベリーパイ誕生きっかけになっている」(太田さん)


同財団の目的は製品の大量生産と販売ではなく、コンピューターを利用したものづくりや、コンピューターを操る人材を輩出することにある。そのため、ラズベリーパイは「慈善団体」という位置付けを保っている。(ただし、実際の販売に関する貿易や開発に関連する部分は、ラズベリーパイ(トレーディング)Ltdによって行われている)。


◆日本の高専でも利用

ラズベリーパイは日本の学校でも大きな注目を集めている。「特に高専(高等専門学校)に与えた影響が大きいと思う。高専の先生が『壊しても大丈夫なものを手にできるようになった』と喜んでいたのがその象徴だ」と太田さんは言う。


確かに、十万円を超えるようなコンピューターを研究や遊びの延長で解体するには抵抗があるものの、数千円で手に入れられるラズベリーパイなら気兼ねなくできる。学びにおける重要なプロセスである「トライ&エラー」を、このデバイスが可能にしてくれた。特に高専の1〜3年生に人気だという。


◆高い能力を発揮する日本のラズパイユーザーたち 2012年10月、太田さんら11人のラズベリーパイ愛好家の日本人たちが「ジャパニーズ・ラズベリーパイ・ユーザーズ・グループ」を立ち上げた。当時日本ではラズベリーパイはほぼ流通していなかったが、購入ルートを確保したり、財団と連絡を取りつつ日本語によるラズベリーパイの情報提供を開始したりしたという。


エベン・アプトンさん夫婦が無類の日本好きだということがきっかけで、自然な流れで交流を持つようになった太田さんたちは以後、財団発の公式プロジェクトや公式ガイドの日本語版翻訳にも関わるようになったという。


「この仕事はボランティアだが、翻訳作業だけでなく、プロジェクトの動作検証も行っている。実際LEGOプロジェクトの翻訳時には、元のコードが間違っていることを突き止め、日本のチームメンバーが修正を施したほどだった」(太田さん)


安価で手に入れやすく、しかも高性能なラズベリーパイは、ユーザーが試行錯誤することを許容してくれる。この素晴らしいデバイスが普及することで、より多くの日本人がコンピュータに関する知識を深めるに違いない。



在外ジャーナリスト協会会員 寺町幸枝取材 (後日編集済み)

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