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米国の産休制度、職場復帰が簡単に--USワーキングマザー考(1)

日本の合計特殊出生率1.41人に対して、米国は1.89人。この違いは、女性が働く環境にあるかもしれない。日本では一度退社すると正社員に戻りにくいため、家庭よりもキャリアを選ぶ女性が増えた。一方、米国では数年主婦として子育てに専念しても、能力がある女性が簡単に仕事に復帰できる環境がある。その背景には、女性に徹底的に配慮した産休制度があった。(在ロサンゼルス=寺町幸枝)

ミシェル・ロブレスさんと娘のマリアちゃん米国カリフォルニア州サンディエゴ。現在33歳のミシェル・ロブレスさんは、2008年に結婚。2012年に長女を出産した。

CPA(米国公認会計士)の資格を持つ彼女は、「ビッグ4」と呼ばれる世界四大会計事務所の一つに勤めていた。

しかし、結婚を機に転職を決意。大きな理由は、ビッグ4ゆえに、期末の長時間労働が徐々にこたえてきたからだ。

結婚したからには、子どもが欲しい。妊娠や出産というプロセスを考えると、大きな会社だからこそ得られるベネフィット(福利厚生)は捨てがたい。

すでにマネージャーという肩書きを得ていたが、長い目で見ると、様々な障壁もありそうだとも感じていた。そこで、小規模の製薬会社の会計部門に転職を決めた。

■ 職場復帰支える米国の産休制度

ちなみに、米国の「産休制度」を支えている法律の名称は、直訳すれば「妊娠による差別に対する規制」。1978年に、病気による差別に対する規制と同じ条件が与えられた。

その主な内容は、次の通り。

1)雇い主は、妊娠を理由に解雇できない

2)雇い主が、妊婦に産休を強制的に取らせてはならない

3)雇い主は、仕事内容を調整したり、他の仕事を与えるなどの条件変更を得られる権利がある4)自分の仕事をこなせる限り、産休を取る必要はない

5)雇い主は、産休後のポジションを確保しなくてはならない

ただし、上記の条件は、社員「15人以上の会社」のみ。それ以下の会社は、この規制に従う必要はない。だがこの法律は、「差別を受けない」ために役立つだけの法律で、もし他の社員が受けていない福利厚生などがあっても、企業内の妊婦に与える必要はない。

そこで登場したのが、1993年の法律「The Family and Medical Leave Act (FMLA)」である。これにより、1週間に最低25時間以上働いている人は、無給だが12週間(3カ月)まで、仕事のポジションを確保できる。

これは米国における「連邦」の規制であり、さらに州によって、この規制内容は変わって来る。例えば、カリフォルニア州には「the California Family Rights Act(CFRA)」という労働者に取って「有利」に働く、つまり企業にとっては「厳しい」規制が用意されている。

CFRAの概要は、次のとおり。

1)雇用主は産休中の医療保険を継続的に保証しなくてはならない

2)産休は4カ月まで取得可能

3)家族のケアをするために取る場合は12週間まで取得可能

この法律は、50人以上の社員を持つ会社を対象にした法律だ。ただし、前述のロブレスさんの場合、転職先は50人以下の製薬会社の会計部門。しかし、同社はCFRAをベースにした産休制度を取り入れていた。

■ 「お互い様」の気持ちで女性も男性も出産を祝福

ロブレスさんは職場復帰後も、理解ある女性の上司のおかげもあり、終業時間きっかりで帰宅することなどについても、理解が得られているという。

だが、実際、米国では産休や育休を取る人に対して、周囲はどのような反応を示しているのだろう。

ロブレスさんは、「ビッグ4にいた時も、女性のスタッフが産休を取ると話した場合、みんな喜んで、社内で『サプライズベビーシャワー』(臨月の妊婦を招いて開くサプライズパーティ)を開くほどでした」と話す。

「男性のスタッフたちも、私の前の上司においては、4人の子どもを持つ父親だったので、子どもを作ることに対し、とてもポジティブに受け止めていました」

「転職先では、もともと産休を取る人の代理として入社。彼女が復帰した後も、私はそのまま継続的に仕事を続け、さらに1年後、今度は自分が出産を経験しました。その時も周囲からサポートを受けられました」

「仕事を一時的に離れるために、自分の業務を他の人に引き継がなくてはいけませんが、少なくとも3カ月ほど前から、引き継ぎ事項をまとめて伝えるような形を取っていました。ビッグ4にいた頃は、産休中の同僚の仕事を引き受けることも1度ではありませんでしたが、それで多少業務が増えたことは、お互い様という気持ちで特に嫌な気分になったことはありません」

ロブレスさんのケースは、会社の規模が大きいゆえの贅沢な環境なのかもしれない。実際に、小規模の会社にとって、一人の産休が、会社全体を大きく乱す場合もある。またそのポジションの重要さゆえに、会社運営全てにかかわるフローに問題が起きるケースもあるだろう。

■ マネージャークラスにもパートタイマーを採用

しかし、米国ではこうした状況で、通称「テンプ」と呼ばれるパートタイムを雇うことが多い。アルバイトといっても、仕事内容は責任ある仕事。マネージャークラスのポジションにも、テンプスタッフを入れることも少なくない。

先述のロブレスさんも、転職当時は、パートタイムという形で、産休中の社員の代理として入社したが、彼女はビッグ4時代にプロジェクトマネージャー職に就いていた。

日本でいうパートタイムとは異なり、単純にフルタイムスタッフのように、福利厚生が得られなかったり、年俸ではなく時給ベースで仕事をするというだけ。働き次第で、十分この点も交渉可能だ。

そのため、子育てをしながら仕事を続けたいようなキャリアを持った女性や、キャリアチェンジをしたばかりの男性など、フルタイムへの足がかりとして、このようなテンプの仕事で積極的な仕事をする人々も沢山いるのが米国だ。

日本のように、派遣社員やアルバイトと正社員の区別がはっきりしていて、仕事の善し悪しに関係なく、ステータスを変えるのが難しい環境に比べ、米国ではパートタイムで実力を見せれば、フルタイムの仕事を得ることも可能だし、パートタイムにも、福利厚生全てを与えるような企業も沢山ある。

今日本では「女性手帳」の発行云々で、女性の子育てとキャリアについて再び様々な論議が巻き起こっている。だが、何よりも、ロブレスさんのケースのように、周囲から祝福され、また仕事復帰や産休においても、職場ベースでのサポートを取れる体制が作れるかが重要だろう。

法律的や税制的な面でも、子どもを産み育てることのメリットを感じなければ、女性たちはキャリアを取るか、子育てを取るかのどちらかの選択に迫られてしまう。

どんなに良い環境が整えられたとしても、どんなにスーパーウーマンでも、自分以外の人間を育てることによる責任は、少なからずキャリアの面で何かしらの融通を強いられる。自分が仕事を続けることで、子育てに専念している母親に比べ、ワーキングママが何かしら「罪悪感」を感じるのは、1度や2度ではない。

それゆえに仕事と子育てを続けることの「理由」を聞かれたら、「どちらも好きで、そして続けられる環境があるから」という答えを、できるだけ多くの女性たちから聞けるような社会環境作りを目指すべきではないか。

<オルタナオンライン 2013年11月5日掲載分>http://www.alterna.co.jp/11893/


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