英国通信会社BTが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、積極的に日本企業や公的機関への経験談を共有する機会を設けている。2012年のロンドン大会で、コミュニケーション・パートナーとして大会の運営に関わった経験から、日本企業や行政に様々な警鐘を鳴らしているのだ。オリンピックは、もはや東京という一都市のイベントではなく、「日本」を背負って立つイベントだと強調する。
ロンドンオリンピックの公式コミュニケーションサービスパートナーとして活躍したBT(BTジャパン提供)去る3月12日、東京の英国大使館、大使公邸で開かれたBTジャパン主催の朝食会には、日本を代表する国際企業のトップたちが顔を揃えた。目的は一つ。2012年ロンドンオリンピック・パラリンピックで「コミュニケーション・パートナー」として、通信インフラ分野で、同大会の設備運営を任されたBTから、来る2020年、東京が待ち受けるであろう問題や、準備していかなくてはならない具体的なことが何であるかを学ぶためである。
2012年のロンドン大会は、英国にとって、非常に大きな経済効果をもたらしたと言われている。BTの調べによれば、600もの企業や公的組織に調査を行なった結果、大会開催後、五分の四の組織が平均して14%売上を増加させ、さらに2013年以降も継続してその効果が得られると予測。その増加率は11%に上ると発表している。
英国のディビッド・キャメロン首相は、このBTの調査結果に対して、「英国の企業は、ロンドン大会の経済効果をいまだに受けており、それは2013年以降も継続すると確信を持って答えている。こうした結果を、この調査が明らかにしてこれたことを嬉しく思う」とコメント。この調査が、オリンピックの一種のサステナビリティを証明した形となった。
ロンドンオリンピックの「テクノロジーオペレーションセンター」で活躍するBTスタッフ(BTジャパン提供)こうした中、BTが現在様々な日本企業から、ロンドン大会での経験を「シェア」して欲しいという依頼を受けている背景には、同社がオリンピックをきっかけに業績を伸ばしているだけでなく、「通信」という大会を支えるインフラの要の設計、運用を任され、世界中から高い評価を得ているたからだ。
2012年のロンドンオリンピックは、国際イベントの「通信環境」を劇的に変えてしまった。ロンドン大会は、2008年の北京大会から大きく変化を遂げ、インターネットを通じて情報や映像が大々的に普及。タイムリー性、通信量、あらゆる面で「初」がついた。オリンピックを運営する「国際オリンピック委員会(IOC)」の指揮の下、BTは大会のメイン会場で、観客向けの公衆無線LAN(Wi-Fi)をオリンピック史上初めて敷設。大勢の人々が同時にデータ通信を利用し、パソコンやスマートフォン、タブレットなど、それも世界中から集った、新旧取り混ぜた様々なWi-Fi規格の端末に対応することを求められるという極めて「チャレンジングな」環境がもたらされたという。ロンドンオリンピックのBTタワーと花火(BTジャパン提供)
こうした難しい課題に、同社は「問題想定」「可能な対応策の提起」「プライオリティの選択」を何度も繰り返し、大会への準備を行なった。それをほぼ4年という短い時間で構築し、事故なく大会を運営し切った手腕は、これから日本企業や公的機関が学ばなくてはならないだろう。
BTの日本法人であるBTジャパンの吉田晴乃代表取締役社長は、「来る2020年の東京大会を迎えるにあたり、日本の企業は様々な点で真のグローバル化を求められるだろう」と語る。現在サイバーセキュリティーのプロから、建設業界の作業員まで、日本での人材不足が懸念されている。それらを補うためには、外国から人材を得る必要があるだろう。これまで単一志向であった日本企業は、言語や組織形態など、あらゆる点のグローバルな対応を、これまでのような緩やかな変化ではなく、劇的に変わることを求められていくであろう。
日本の各組織は、これを世界的に飛躍するチャンスと捉えられるのか。そしてオリンピックをきっかけに、日本に溢れる閉塞感を打ち破り、再び世界と戦う競争力を持つ日本企業を多く輩出できるかは、これからの6年間の日本人の学ぶ力にかかっている。
<punta.jp用執筆記事>2014年4月4日掲載 http://punta.jp/archives/24183