ロサンゼルスの文化的中心であるウエストハリウッド。そんなウエストハリウッドの「今」を伝える雑誌「ウエストハリウッドマガジン」が2014年秋に創刊され、話題を呼んでいる。
写真やコンテンツのクオリティーにこだわることはもちろん、雑誌らしい「紙の質」にまでこだわったこのフリーマガジンを率いているのは、ヘンリー・スコット編集長。ニューヨークで実力を積んだメディアのプロに、ローカル雑誌らしいビジネス手法から、ウエストハリウッドのトレンド、魅力まで、いろいろと語ってもらった。
「紙質までこだわった雑誌を、1冊1冊地元の方へ届けています」
――『ウエストハリウッドマガジン』について教えてください。
ウエストハリウッドマガジン(以下WHM)は、100ページで構成された年4回1万部を発行しているフリーマガジンです。メディア業界の用語では「ハイパーローカルマガジン」というカテゴリーに属します。このハイパーローカルマガジンは、非常に狭い地域をターゲットにした雑誌を指しますが、「雑誌」というカテゴリーに関しては、未だにビジネスとして成功している業態です。特徴は、「ドアtoドアデリバリー」。米国では雑誌の多くが定期購読による郵送というスタイルですが、WHMをはじめとしたハイパーローカルマガジンは、一部ずつポスティングで配布されます。現在WHMは、ウエストハリウッド、そしてお隣のビバリーヒルズを中心に配布を行っています。またエリア内のホテルにも納品しています。高級紙でできたWHMは、客室向け雑誌として好評だと言ってもらえています。また市内の「ニューススタンド」でも販売されています。もちろんネット経由では定期購読も受け付けています。
オンラインビューイングも可能なので、コンテンツはネットで見ることができますが、我々の雑誌は非常に高品質の紙を使っているので、実際の雑誌を手に取られるとその良さを感じてくださる方は多いです。
――スコット編集長の経歴をお聞かせください。
私は2014年9月にこの雑誌を創刊しました。私が出版元であり、オーナーであり、編集長です。私は編集の経験も、またメディアビジネスの経験も積んでいます。長い間新聞社で記者としてまた編集者として出身地であるノースキャロライナとコネチカットで経験を積みました。そして1989年からニューヨークに移り、ニューヨークタイムズでメディアビジネスに関わるようになりました。最終的に、新規メディア部門の副社長として外国語の新聞の創刊や、オンラインベンチャーの立ち上げなどに関わりました。
1996年に独立し、メディアコンサルタントとして、「Outマガジン」の立て直しや、Metro New Yorkマガジンの立ち上げなどに関わりました。またウォールストリートジャーナルやダラスモーニングニュースなど、ローカル紙のコンサルタントとして関わってきました。
2011年、ロサンゼルスの気候や雰囲気み魅せられてニューヨークをでました。パリも候補でしたがロサンゼルスにしたんです。そしてウエストハリウッドの政治や文化を伝えるローカルニュースサイト、Wehovilleというオンラインメディアを2013年に立ち上げました。数年住んでウエストハリウッドがただのパーティータウンではないということを世界に伝える手段が必要だと感じたからです。Wehovilleでの経験が、WHM発行のきっかけになりました。
――ロサンゼルスには「ロサンゼルスマガジン」も存在します。WHMの特徴を教えてください。
ロサンゼルスの中でも「ウエストハリウッド」というユニークな地域に焦点を当てた雑誌です。どのストーリーも、ウエストハリウッドに存在するクリエイティブなプロジェクトや人々について書かれています。私たちが目指すのはウエストハリウッドを、南カリフォルニアの「クリエティビティの中心部」にすることです。
というのも、ウエストハリウッドは、これまでの正しく評価されてきていないと思うからです。また私たちが提供するストーリーや写真は、すべて我々が選りすぐったフリーランスのライターによって語られ、選ばれたカメラマンによって撮影されたものです。例えばビバリーヒルズのローカル雑誌がパリにいるモデルにエッフェル塔を撮影させた写真を購入して使用するといったようなことは一切ありません(それほど質にこだわっているということです)。
――ニューヨークで長年キャリアを積んできた編集長ですが、ロサンゼルスで苦労していることはありますか?
実はなかなか実力のある記者がいません。この街はライターといえば「シナリオライター」。同じ書くのでも脚本とニュース記事では違いがあるので、その点ではまだ苦労しています。
――雑誌創刊当時から広告収入などで苦労はしませんでしたか?
Wehovilleを3年ほど運営していたことは非常に大きかったです。それでもなかなか最初は広告は集まりませんでしたが、創刊号を見てその内容はもちろん、紙質にまでこだわった雑誌作りに感動してくれた人は非常に多かったですね。実際すでに毎号少ないですが黒字なんですよ。1年が過ぎ、最近ではこちらから広告のお願いをせずとも、広告出稿を希望してくれるクライアントが出てきました。
「コーヒーとナイトライフ! これが今のウエストハリウッドのトレンドです」
――さて今のウエストハリウッドのトレンドを教えてください。WeHo(ウエストハリウッドの略称)に住む人たちの今一番の関心は何ですか?
コーヒーとナイトライフでしょう!今ウエストハリウッドには、ユニークなコーヒーバーが続々作られています。もちろん、スターバックスもありますが、Verveや、Zinqueなど、人々がゆっくりと語らえる場所が人気です。(ちなみにZinqueはレストランです)
またナイトライフは今非常に元気で、Bootsy Bellows, Henry’s などを手がけるウエストハロウッドグループのジョン・テルジアンの店はその例です。ウエストハリウッドは、1.9平方マイル(東京ドーム104個分)の広さに、3万5千人が住んでいます。これは米国中でも16番目に人口密度の高いエリアです。そして、米国内でも希少な「歩いて回れる街」の一つなんです。家からランチやコーヒーを飲みために歩いて行く、これこそ私たちWeHo住民の好むことです。パリやニューヨークの天気がいい日にできることを想像してみてください。
――季刊誌としてのスケジュールはどんなものでしょうか?
我々は通常雑誌の発行した翌日に、次の雑誌の内容のプランニングをはじめます。(もちろん中には少し早めに取り組む特集もありますが)。現在私とクリエイティブディレクターの2人ですべてをマネージしています。フリーランスで協力してくれているライターは10人ほど。また素晴らしい写真を提供しているカメラマンは7,8人ほどいます。私たちはアート、建築、デザイン、ファッション、スタイルという幾つかの中心になるテーマを毎号手がけます。そしていつも各分野に秀でた地元の人々や出来事をフィーチャーし、その活躍を取り上げています。さらにゲートウェイというトピックも毎号用意していて、これは地元の人が週末やバケーションで訪れたらよさそうな楽しい場所を選んで記事にしています。なお今後は季刊誌とは別に、特別なテーマを持った号の発行も検討しています。
――地元の店や機関と協力して何か行っていることはありますか?
雑誌は、私たちにとってひとつのリソースです。もっと地元のイベントプロモーターたちとコラボしていけたらと思っています。昨年1周年の記念パーティーをAndaz Hotelの屋上で開催し、素晴らしい成功を収めました。300名に上るアートやファッション、デザイン業界で活躍する地元の有力者たちが、市長や市政府を支える人々とともに集まってくれたのです。
――この先、編集長の夢は何でしょう。
やはり私は最終的に「新聞」を発行したいんです。そのためにまだまだやることはたくさんあります。
「ハイパーローカルマガジン」という聞きなれない言葉。デジタルメディアに押されるこの時代で、古き良き高級紙で作る雑誌が、黒字で運営されている、という話しを聞いただけでも驚いた。地元に根付き、支えらているからこそ、この雑誌は魅力的であり、ビジネスとしても成功しているのだろう。
これは日本という場所に置き換えてみても十分当てはまるように思う。スコット編集長の高い志とこれまで培ってきたビジネスに関する適切な知識と経験が、この雑誌を成功に導いていることは間違いない。
(インタビュー/文 Yukie Liao Teramachi fromロサンゼルス)
<T-SITE Lifestyle 2016年3月掲載> http://top.tsite.jp/lifestyle/magazine/i/28133195/